すべてはあの花のために②


「それで、オウリくんたちはどこまでなら知っているんだろう。もしアキラくんがみんなに話したことがあれば、それを聞かせてもらえる?」


 一瞬躊躇ったものの、彼は意を決して書き始める。その腕の動きは少々――……ううん。酷く、荒い。


〈あっくんがおれらに言ったことはこうだった〉


 ――もしかしたら、俺はある時から『おかしくなってしまう』かもしれない。それでも、これは俺が望んだことだから。だから、みんなは見て見ぬ振りをしてくれ。


 ……実際のところ、その言葉の意味はわからなかった。
 でも『おかしくなる』ってことにみんなは過剰に反応して、説得しようとしたんだけど。


「(そこでアキラくんは、泣いてしまったと)」


『俺はどこがおかしかったんだ』

 彼が焦った様子で尋ねてきたのは、そういう意味だったのか。


〈それでその後すぐ あっくんは本当におかしくなった〉


 葵が納得している横で、彼は書くのを止めなかった。殴り書きをひたすらに続けていた。


 その話を聞いたのは、小学校を卒業した頃くらい。中学に上がった頃から、あっくんはおかしくなったんだ。今まで、好んで食べてなんかいなかったのに。


〈異常なほど 食べ始めたんだ〉


 それが何なのか。すぐに予想はついた。


〈それがおかしくなるってことなんだって思って みんなはそんなに深く考えていなかったんだ〉


 でも、高校に上がってからは、もっとおかしくなった。きっと、気づいていたのは、おれとつっくんだけだと思う。


「(つっくんは、多分ツバサくんのことかな。彼もよく気づく人だから)」


 高校に上がってからは、今以上にお菓子を食べるようになったし、ぼーっとすることも多くなってきて。授業中も、よく寝てるんだって。つっくんから聞いたことがあるんだ。


〈それから時々ぼけ始めた 覚えてないことがよくあったんだ〉

「そうなの? わたしは全然気づかなかったよ」

〈今年に入ってからはそんなに思うことは確かになかったんだ なんでなのかはわからなかったけど もしかしたら あーちゃんがいるからなのかなって おれは思ったんだ〉


 今までと違うのは、『あーちゃんがいること』だから。