「それで、オウリくんたちはどこまでなら知っているんだろう。もしアキラくんがみんなに話したことがあれば、それを聞かせてもらえる?」
一瞬躊躇ったものの、彼は意を決して書き始める。その腕の動きは少々――……ううん。酷く、荒い。
〈あっくんがおれらに言ったことはこうだった〉
――もしかしたら、俺はある時から『おかしくなってしまう』かもしれない。それでも、これは俺が望んだことだから。だから、みんなは見て見ぬ振りをしてくれ。
……実際のところ、その言葉の意味はわからなかった。
でも『おかしくなる』ってことにみんなは過剰に反応して、説得しようとしたんだけど。
「(そこでアキラくんは、泣いてしまったと)」
『俺はどこがおかしかったんだ』
彼が焦った様子で尋ねてきたのは、そういう意味だったのか。
〈それでその後すぐ あっくんは本当におかしくなった〉
葵が納得している横で、彼は書くのを止めなかった。殴り書きをひたすらに続けていた。
その話を聞いたのは、小学校を卒業した頃くらい。中学に上がった頃から、あっくんはおかしくなったんだ。今まで、好んで食べてなんかいなかったのに。
〈異常なほど 食べ始めたんだ〉
それが何なのか。すぐに予想はついた。
〈それがおかしくなるってことなんだって思って みんなはそんなに深く考えていなかったんだ〉
でも、高校に上がってからは、もっとおかしくなった。きっと、気づいていたのは、おれとつっくんだけだと思う。
「(つっくんは、多分ツバサくんのことかな。彼もよく気づく人だから)」
高校に上がってからは、今以上にお菓子を食べるようになったし、ぼーっとすることも多くなってきて。授業中も、よく寝てるんだって。つっくんから聞いたことがあるんだ。
〈それから時々ぼけ始めた 覚えてないことがよくあったんだ〉
「そうなの? わたしは全然気づかなかったよ」
〈今年に入ってからはそんなに思うことは確かになかったんだ なんでなのかはわからなかったけど もしかしたら あーちゃんがいるからなのかなって おれは思ったんだ〉
今までと違うのは、『あーちゃんがいること』だから。



