葵の言葉にアカネは弾かれるように立ち上がり、二人と同じように頭を下げた。
「おれ! おじいちゃんにおれの絵を見てもらいたかったんだ! ……これ、見てどう思った?」
「……言葉になどできん。ただ、お前の思いが詰まっていて、それが嫌と言うほど伝わってくるわ」
祖父の言葉を聞いて、アカネの顔がぱあっと明るくなる。
「おれ、素直じゃないからさ。素直じゃないおれがちゃんと自分の気持ちが伝えられる方法なんだ。それを……もう少しだけ。ただ自分のために、自分の大切な人のために描いていたいんだけど……ダメかな?」
「お願いしますっ!」と、アカネも頼む。それに習ってカナデも頭を下げた。
「おじいさん、アカネはおじいさんに認めて欲しかったんです。絵はこんなにいろいろな表現をできるものなんだって。この作品も、ずっと必死に描いてました。きっとアカネの、あなたに一番伝えたい思いがこれなんです。アカネの気持ちを、どうかわかってやってください」
「もう、やめなさい」
彼はみんなに顔を上げるように言った。
「あかね。今まで絵を馬鹿にして悪かった。どうせ遊び程度のもんだと思っとんたんだ。これからは、お前の気が済むまで、好きなだけ絵を描いてくればいい。道場はそれまでちゃんとわしが守っとく」
今度は彼の言葉に、葵以外が驚きを隠せないようだ。
「で、でも、おじいちゃん柔道界やめたいんじゃ……」
「やめたくてやめるわけじゃないわい! そうした方がええかと思っただけだ! でもまあ、もうわしも年を食ったから、ちがやとなずなさんにも少し手伝ってもらおう。もちろんあかねにもだ」
そして彼はまた、ぷいっとそっぽを向いた。
「アサジさん、またそうやって恥ずかしがってたら、ちゃんと伝わりませんよ?」
葵がそう言うけど、彼はもう何も言わないらしい。
「はあ。お祖父様は、みなさんと一緒に道場を守っていきたいみたいなんですけど、どうですか?」
葵がそう言うと、みんな彼の方を向いた。その顔は少しだけ照れているような気がして、「はははっ!」とみんなして笑い合った。



