すべてはあの花のために②


 オウリは首を傾げながらも少し離れて、さっき書いた文字を木の棒でつんつんと突く。


「へ、変態さんにはなってないよ? 少し、アキラくんの話を聞いてあげてただけ」


 そう言うと彼は足で文字を消して、また書き始める。


〈でも絞め技かけようとしてた〉

「ち、違うぞオウリくん。決してそんなことはないが……もしかして技かけられたかった?」


 そう言うが早いか、こくこくっと彼は首を縦に思いっきり振った。
 それに葵が軽くショックを受けていると、オウリはにっこり笑ってとんとんと肩を叩く。顔を上げてみると、〈冗談だよ♪〉と書かれた文字が。


「(君が冗談を言うなんて思わないでしょう)」


 すると彼はまた文字を書いた。

〈でも抱き合ってた〉それから〈何かあったの?〉と。


 ああ、よく見てるんだなと思った。彼はもしかしたら、“そういうところ”に敏感なのかもしれないと。


「オウリくんも、多分気づいてるんじゃない?」


 少しずつその時のことを話すと、彼はこくんと一つ首を縦に振った。


「やっぱりそうだよね。まあわかりやすいぐらいにおかしかったから、気づかない方がおかしいんだけど。本人はそのことに全く気づいてないみたいなんだよね……」


 彼は何を思ったのか、文字を書き進めていく。


〈最近ぼーっとしたり?〉


 書かれた文字に葵は頷いた。
 それを確認するとまた彼は違うところに書き出す。


〈眠そうにしてたり?〉


 こくりと一つ頷く。


〈時間を間違ったり?〉


 もう一つこくりと頷いて、首を傾げた。


〈すっごく寝ちゃったり?〉


 不思議に思いながらも、もう一度頷く。


〈記憶が曖昧だったり?〉


 そして彼は、はっきりそう書いた。


「(……何かがおかしい。どうして……)」


【時間】【眠気】【記憶】
 この不確かを、どうして君は知っているの……?