アサジは、その場から動かなかった。
ただただじっと、作品を眺めていた。
「今にも、ここから飛び出していきそうでしょう。あなたにもそれは伝わってるんじゃないですか。だから、そこから動けないんですよね。……お祖父様、絵ってこんなに人の気持ちを表現できるものなんです。そして、人の気持ちも動かせるものなんです。確かにアカネくんも素直じゃなくて、お祖父様に今まで自分の思いを伝えられなかったかもしれません。けれど……」
それは――お祖父様も同じでしょう?
葵がそう尋ねると、アサジとアカネは目を丸くした。
「お祖父様。どうしてアカネくんをそこまで強くしたいのか、ちゃんと彼に言ったんですか」
「それは、ここの道場を継がせようと」
「もちろんそれもあると思います。でもそれだけじゃないはず。そうでしょう?」
あなたがそれをちゃんと言わないと、二人の間には壁ができたままだ。それは嫌でしょう?
ちゃんと彼は話しました。今度はあなたの番。
ちゃんと彼に、自分の“本当の夢“を話してあげてくださいよ。
「わしは……」
握り拳を作ったアサジは、俯きながら絞り出すように話し出す。
「……お前には、ちがやのように、なって欲しくなかっただけで……」
「え? それってどういう――」
その時ちょうど、待ち侘びた訪問者が訪れた。
「父さん。それはおれからあかねに話すよ」
「お義父様。あたしからもお話があるんです」
みんなが顔を上げたそこにいたのは、アカネの父チガヤと、彼の車椅子を押しながら入ってきた、アカネの母ナズナ。
二人が語るのは、まだアカネには話していない本当の話――――。



