すべてはあの花のために②


 アサジは、その場から動かなかった。
 ただただじっと、作品を眺めていた。


「今にも、ここから飛び出していきそうでしょう。あなたにもそれは伝わってるんじゃないですか。だから、そこから動けないんですよね。……お祖父様、絵ってこんなに人の気持ちを表現できるものなんです。そして、人の気持ちも動かせるものなんです。確かにアカネくんも素直じゃなくて、お祖父様に今まで自分の思いを伝えられなかったかもしれません。けれど……」


 それは――お祖父様も同じでしょう?

 葵がそう尋ねると、アサジとアカネは目を丸くした。


「お祖父様。どうしてアカネくんをそこまで強くしたいのか、ちゃんと彼に言ったんですか」

「それは、ここの道場を継がせようと」

「もちろんそれもあると思います。でもそれだけじゃないはず。そうでしょう?」


 あなたがそれをちゃんと言わないと、二人の間には壁ができたままだ。それは嫌でしょう?
 ちゃんと彼は話しました。今度はあなたの番。
 ちゃんと彼に、自分の“本当の夢“を話してあげてくださいよ。


「わしは……」


 握り拳を作ったアサジは、俯きながら絞り出すように話し出す。


「……お前には、ちがやのように、なって欲しくなかっただけで……」

「え? それってどういう――」


 その時ちょうど、待ち侘びた訪問者が訪れた。


「父さん。それはおれからあかねに話すよ」

「お義父様。あたしからもお話があるんです」


 みんなが顔を上げたそこにいたのは、アカネの父チガヤと、彼の車椅子を押しながら入ってきた、アカネの母ナズナ。


 二人が語るのは、まだアカネには話していない本当の話――――。