すべてはあの花のために②


 そして、今まで表情を崩さなかった彼は、微かに眉を顰める。


「二宮道場師範殿。一つ、わたしと手合わせ願えませんか」

「わしは素人に手は出さん」

「素人ではないことを見抜けないような人の後を、アカネくんが継ぐ必要はありませんね」


 カナデが「ちょ、アオイちゃん!」と止めに入るが、もう遅い。


「いいだろう。そこまで言われたらわしも本気を出させてもらうことにしよう。怪我をしても知らんぞ」

「恐らくそれはないと思いますのでお気になさらず」

「それじゃあ、わしが勝ったらアカネには生徒会を辞めてもらう。稽古に専念してもらいたい」

「ではわたしが勝った時は、アカネくんの話を最後まで逃げずに聞いてください。約束です」

「……いいだろう」

「ありがとうございます」


 そう言って二人に火花が散ってる中、アカネとカナデは「おじいちゃんが大変だ!」と、本気で心配しているのだった。



 そうして、何故だか先にアカネの祖父――浅茅(あさじ)と葵の対決が始まってしまった。アカネは審判を務め、カナデはちいさく旗を振って応援している。その横に救急箱を待機して。


「いっ、一本取った方が勝ちです。時間は設けません。それでは……――はじめえ!」


 アカネの合図と共に、葵と祖父は向き合う。


「服は着替えなくてよかったのか」

「はい。問題ありません」


 私服でしかもスカート。それでも葵は、柔道着を着るのを断っていた。ただ不適な笑みを携えて、アサジを見遣る。


「いつでも来てくださって結構ですよ」


 葵からは全く動かない。腰を低くしたアサジは、いつでもこちらに向かってきそうだ。

 それから全く動こうとしない二人に、カナデは怪訝な表情を浮かべていた。けれど審判しているアカネは、とてもキラキラとした目で彼らを見ている。二人とも全く隙がなく、お互いが動きたくても動けない状況なのを察したからだ。