そして、今まで表情を崩さなかった彼は、微かに眉を顰める。
「二宮道場師範殿。一つ、わたしと手合わせ願えませんか」
「わしは素人に手は出さん」
「素人ではないことを見抜けないような人の後を、アカネくんが継ぐ必要はありませんね」
カナデが「ちょ、アオイちゃん!」と止めに入るが、もう遅い。
「いいだろう。そこまで言われたらわしも本気を出させてもらうことにしよう。怪我をしても知らんぞ」
「恐らくそれはないと思いますのでお気になさらず」
「それじゃあ、わしが勝ったらアカネには生徒会を辞めてもらう。稽古に専念してもらいたい」
「ではわたしが勝った時は、アカネくんの話を最後まで逃げずに聞いてください。約束です」
「……いいだろう」
「ありがとうございます」
そう言って二人に火花が散ってる中、アカネとカナデは「おじいちゃんが大変だ!」と、本気で心配しているのだった。
そうして、何故だか先にアカネの祖父――浅茅と葵の対決が始まってしまった。アカネは審判を務め、カナデはちいさく旗を振って応援している。その横に救急箱を待機して。
「いっ、一本取った方が勝ちです。時間は設けません。それでは……――はじめえ!」
アカネの合図と共に、葵と祖父は向き合う。
「服は着替えなくてよかったのか」
「はい。問題ありません」
私服でしかもスカート。それでも葵は、柔道着を着るのを断っていた。ただ不適な笑みを携えて、アサジを見遣る。
「いつでも来てくださって結構ですよ」
葵からは全く動かない。腰を低くしたアサジは、いつでもこちらに向かってきそうだ。
それから全く動こうとしない二人に、カナデは怪訝な表情を浮かべていた。けれど審判しているアカネは、とてもキラキラとした目で彼らを見ている。二人とも全く隙がなく、お互いが動きたくても動けない状況なのを察したからだ。



