すべてはあの花のために②


「さてと。……それで? チガヤさんはわたしに何か聞きたいことが?」


 彼らがアトリエから出て行ったのを確認してから尋ねると、チガヤは申し訳なさそうに苦笑いする。


「おれが言えなかったことを、アカネに言ってくれてありがとう」

「ええ?! あ、頭を上げてください。わたしはわたしがしたいようにやってるだけなので。これでもアカネくんが動こうとしないなら、お尻引っ叩いてでも連れて行くつもりでしたけど……」

「えっ。お尻……?」


 彼はツボにハマったのかしばらく笑っていた。


「おれは足がこんなになっちゃったから、あいつの代わりに継いでやることはできなくてね。それでもあいつの気が少しでも紛れるように、絵の描き方を教えてあげていたんだけど……それが父の気に障ったみたいでね。おれは、自分のしたことが間違いだったのかなって思ってたんだ」


 彼は目を瞑って話していた。


「それでも、あいつは絵が好きになってくれたから、おれはすごい嬉しいんだ。あおいサンには勘違いして欲しくないんだけど、あいつはちゃんと柔道も空手も大好きなんだよ」

「はい。それはよく存じてます」

「そっか。……父は頑固だから、あいつが絵を好きだって言っても、そんなものと道場どっちが大切なんだなんてことを言い出すかもしれない。それでも君は、あいつを支えてくれるのかな」


 葵は一度ゆっくりと瞬きをして、チガヤと目を合わす。


「それはもちろんですが、わたしは今まで支えられてきた背中を補助するだけですよ?」


 にっこり笑いながらさらに続けた。


「だって、彼の背中にはもうあなた方がいますから。今まで彼の支えになってきたあなた方のお仕事を、わたしが掻っ攫うわけにはいきません」


 今まで、きっとつらかったと思います。苦しかった、悲しかった、寂しかった、冷たかった。彼の視界は狭くて、この突破口に気づけなかったから。


「わたしが言うのもおかしな話ですが、アカネくんについてあげててくれて、本当にありがとうございます。今回はわたしも少しだけ力を貸してあげたいなって思うんですけど、それでもよろしいでしょうか」


 葵がそう言うと「ああ。もちろんだよ」と、彼はくしゃくしゃの笑顔で答えてくれた。