すべてはあの花のために②


「ちなみにチガヤさんは、アカネくんの夢はもちろんご存じなんですよね?」

「……なんとなくね?」


 葵は、チガヤに向けていた顔をまたアカネに向ける。


「アカネくんはやさしいから、自分を犠牲にすれば、みんな丸く収まるんだって思ってる。生徒さんたちもお母様もチガヤさんも。もう傷つかなくていいんだって。……でもね?」


 それは違うよ。他でもない君が傷付いたら意味がない。


「わたしはそんなアカネくんは見たくないよ! それはここにいるみんなそうだ。生徒さんもお母様もチガヤさんも、カナデくんもわたしも生徒会のみんなだって、アカネくんが幸せになることを願ってる! みんながそう思ってるのに、自分一人が夢から逃げて、現実から逃げて……これだって逃げるためなんでしょう!」


 葵は彼の伊達眼鏡を外し、前髪を思い切り掻き上げる。そして、現れた綺麗すぎる瞳と、しっかり目を合わせた。


「……あおい、チャン……?」

「伊達眼鏡かけたって。前髪を下ろして視界を塞いだからって。現実からは逃れられないんだよ」


 それなのに、もう自分の夢を描くことを放棄してる。本当の夢を描けないからって、それを絵に込めて。……そんなことしたって、一番苦しいのは自分でしょう?


「覚えてる? わたしはアカネくんを、助けることはできないかもしれない。でも君の思いを軽くするために、……ここへ来たんだ」


 道場は継がないといけないかもしれない。
 それでも、それは今すぐじゃなくてもいいんじゃない?

 それを君は言った?
『おれは絵が書きたい』って、お祖父様にちゃんと言ったの?

 言ってないんでしょう? 言えてないんでしょう? 言えないんでしょう!?


「その背中、わたしがしっかり支えてあげるから。稽古の前にお祖父様と、ちゃんとぶつかってきて」