「ちなみにチガヤさんは、アカネくんの夢はもちろんご存じなんですよね?」
「……なんとなくね?」
葵は、チガヤに向けていた顔をまたアカネに向ける。
「アカネくんはやさしいから、自分を犠牲にすれば、みんな丸く収まるんだって思ってる。生徒さんたちもお母様もチガヤさんも。もう傷つかなくていいんだって。……でもね?」
それは違うよ。他でもない君が傷付いたら意味がない。
「わたしはそんなアカネくんは見たくないよ! それはここにいるみんなそうだ。生徒さんもお母様もチガヤさんも、カナデくんもわたしも生徒会のみんなだって、アカネくんが幸せになることを願ってる! みんながそう思ってるのに、自分一人が夢から逃げて、現実から逃げて……これだって逃げるためなんでしょう!」
葵は彼の伊達眼鏡を外し、前髪を思い切り掻き上げる。そして、現れた綺麗すぎる瞳と、しっかり目を合わせた。
「……あおい、チャン……?」
「伊達眼鏡かけたって。前髪を下ろして視界を塞いだからって。現実からは逃れられないんだよ」
それなのに、もう自分の夢を描くことを放棄してる。本当の夢を描けないからって、それを絵に込めて。……そんなことしたって、一番苦しいのは自分でしょう?
「覚えてる? わたしはアカネくんを、助けることはできないかもしれない。でも君の思いを軽くするために、……ここへ来たんだ」
道場は継がないといけないかもしれない。
それでも、それは今すぐじゃなくてもいいんじゃない?
それを君は言った?
『おれは絵が書きたい』って、お祖父様にちゃんと言ったの?
言ってないんでしょう? 言えてないんでしょう? 言えないんでしょう!?
「その背中、わたしがしっかり支えてあげるから。稽古の前にお祖父様と、ちゃんとぶつかってきて」



