彼の手は、また、震えていた。
「どうしてカナデくんはこんなになっちゃったのかなあ」
「……っ」
「よしよし。わたしは大丈夫だったからね。どこも怪我してないからね?」
彼が少しでも安心できるように、お腹に回った腕をぽんぽんと撫でる。
「……なんとも、ない……?」
「全然ないよー。寧ろ向こうが大怪我だよー」
「ここは? 痛くない? 怪我、してない……?」
そう言ってカナデは、不安そうに葵の胸に――心に触れる。
「おうとも。全然平気さ。寧ろここも向こうの方が重傷だよ」
「そっか。……よかった」
安心したのか、カナデはくしゃっと笑った。
ふっと腕の拘束が緩み、ようやく解放してくれるのかと思ったら、何故かこめかみに温かくてやわらかい感触が。
「バイバイ。アオイちゃん」
「(……もう通常運転だし……)」
真っ赤になった葵は、唇が触れたところを手で覆いながら、何かを抱えている彼の背中が見えなくなるまで見送り続け。
「……はあ。帰りますか」
大きな門を開けて、屋敷へと戻った。
今日も、複数の影が彼らを見ていたことに気付かないまま――――……。



