すべてはあの花のために②


 彼の手は、また、震えていた。


「どうしてカナデくんはこんなになっちゃったのかなあ」

「……っ」

「よしよし。わたしは大丈夫だったからね。どこも怪我してないからね?」


 彼が少しでも安心できるように、お腹に回った腕をぽんぽんと撫でる。


「……なんとも、ない……?」

「全然ないよー。寧ろ向こうが大怪我だよー」

「ここは? 痛くない? 怪我、してない……?」


 そう言ってカナデは、不安そうに葵の胸に――心に触れる。


「おうとも。全然平気さ。寧ろここも向こうの方が重傷だよ」

「そっか。……よかった」


 安心したのか、カナデはくしゃっと笑った。
 ふっと腕の拘束が緩み、ようやく解放してくれるのかと思ったら、何故かこめかみに温かくてやわらかい感触が。


「バイバイ。アオイちゃん」

「(……もう通常運転だし……)」


 真っ赤になった葵は、唇が触れたところを手で覆いながら、何かを抱えている彼の背中が見えなくなるまで見送り続け。


「……はあ。帰りますか」


 大きな門を開けて、屋敷へと戻った。



 今日も、複数の影が彼らを見ていたことに気付かないまま――――……。