すべてはあの花のために②


 そう言ったらようやく、彼と目線が合った。「やっとこっち向いてくれた!」と喜んでいられたのも一瞬で、「アオイちゃん。今のどういうこと」と圧強めに怒られたけれど。


「どうして、さっき言わなかったの」

「言ってどうにかなること?」

「許せないよ!」

「わたしは、今のカナデくんみたいに、みんながなっちゃうと嫌だった。周りが見えなくなってしまうのだけは不味いと思ったから、言わなかったの」

「じゃあなんで俺には言ったの」

「今のカナデくんは、すでに周りしか見えてなかったから」


 目を見張る彼に、葵はただにこりと笑うだけ。


「何、言って……」

「ねえ。君は、何をそんなに警戒しているの?」


 彼は何も言わない。
 でも、視線は外されなかった。


「わかった。『まだ』近づかないでおくね」


 ――でも『いつか』は近づくから、覚悟しておいて。
 その決意を胸の中に落として、「それじゃあね」と家の門を開けようとした。


「カナデくん。わたしは今日、早く家に帰らないといけないんだが」


 けれど、後ろから抱き締められて動けなくなる。