そう言ったらようやく、彼と目線が合った。「やっとこっち向いてくれた!」と喜んでいられたのも一瞬で、「アオイちゃん。今のどういうこと」と圧強めに怒られたけれど。
「どうして、さっき言わなかったの」
「言ってどうにかなること?」
「許せないよ!」
「わたしは、今のカナデくんみたいに、みんながなっちゃうと嫌だった。周りが見えなくなってしまうのだけは不味いと思ったから、言わなかったの」
「じゃあなんで俺には言ったの」
「今のカナデくんは、すでに周りしか見えてなかったから」
目を見張る彼に、葵はただにこりと笑うだけ。
「何、言って……」
「ねえ。君は、何をそんなに警戒しているの?」
彼は何も言わない。
でも、視線は外されなかった。
「わかった。『まだ』近づかないでおくね」
――でも『いつか』は近づくから、覚悟しておいて。
その決意を胸の中に落として、「それじゃあね」と家の門を開けようとした。
「カナデくん。わたしは今日、早く家に帰らないといけないんだが」
けれど、後ろから抱き締められて動けなくなる。



