どこか混乱している様子の彼にこの状況の説明を頼まれ、逆にどこから覚えているかを尋ねたら……。
「え。ぜ、全然……?」
「何となくしか。熱海に着いて、駅で杜真に会って……」
「(ちょっと待って。そこから?)」
「……旅館に、ちゃんと着いたかも危うい」
「でも着いて、キク先生のパーティーの準備しようって」
「パーティー?」
「そうだよ。新幹線の中でキサちゃんが提案してきたでしょう?」
寝起きだから記憶が混濁しているという可能性も、全くないわけではない。
少し、辛抱強く待ってあげると、彼は理解が追いついたように「ああ」とこぼした。
「思い出した?」
「みんなで分かれて、ここで部屋の飾り付けをしてるんだったな」
「そうだよ。それで、準備してる間にアキラくん寝ちゃったから、お布団敷いて寝かせてあげてたの」
「葵は? どうして観光行ってないんだ」
「……ちょっと、アキラくんが心配だったからかな」
「心配? 俺がどうかしたのか」
「その前にさ、キク先生のプレゼント買いに行けなかったから、パーティーまでに一緒に買いに行こうね?」
「ああ。悪かった」
「ううん。大丈夫だよ」



