すべてはあの花のために②


「ぎやあああーッッ!!」


 彼らはそう言って走り去っていく。なーんだ、つまんない――そう思って一人だけ捕まえた。
 捕まえられた人はというと、「ひぃっ!」と、涙を目にいっぱい溜めている。


「では、あなたに伝言を頼みましょう。その依頼主とやらに」


 こんなもの通用するとでも?
 やるならとことんやりなさい。自分じゃ何もできないヘタレさん。


「そっ、そんなの誰が伝え――」

「それじゃあ代わりに、あなたの商売道具を今ここで踏み潰して差し上げましょうか?」

「やっ、やめっ……!」

「それじゃあ伝言。……お願いしますね?」


 彼が立ち去るのを見届けてから、葵は縛られている彼らの元へ駆け寄った。


「みなさん大丈夫ですか!」


 縄を解き軽く彼らの頬を叩くと、意識がゆっくりと戻ってくる。この状況になったことを思い出すと、「あっ、あいつらにやられたんだ!」と口を揃えた。

 先程逃げて行った三人は、今回の人員確保のために急遽雇われた人たちらしい。葵と同じくタイヤの予備の場所を聞かれ、気付いた時には気を失っていたと。


「あいつら一体なんなんだ! 帰ったらとっちめてやる!」


 恐らく、彼らはもう彼らの仕事場には戻ってこないだろう。彼らは、ある目的のため仕事場に潜入し、それがたった今失敗に終わった。また違う方法で、目的の達成を図るに違いない。


「できれば後のことはこちら側に任せてください。財閥がバックに付いていますので、絶対彼らの好きにはさせません」


 悔しい気持ちはよくわかる。でも、アカネの友人でもある彼らのことを、これ以上危ない目に遭わせるわけにはいかない。
 責任者には後ほどこの話を通すことにして、ここでのことはなかったことに。何故なら、仕事はまだ終わってはいないからだ。


「気持ちを切り替えて、最高の体育祭にできるよう、お手伝いお願いします」

「おうともさ!」

「ここでのことも言わないよ」

「でももし、何か俺らに手伝えることがあれば教えてくれ」

「ありがとうございます。その時は必ず」


 葵は三人が持ち場に戻っていくのを見送った。