「ねえ、何かあったの」
そうしていると、隣の悪魔さんからお声が。
「ん? 何が?」
「いや、別に何でもないけど……あんたは、前の学校でなんか変わった競技とかあった?」
珍しいこともあるもんだ。君が世間話をしてくるとは。
「……浴衣着て、踊ったかな?」
「浴衣? こんな暑いのに?」
10月と言ってもまだまだ温度は下がらない。今の日本はの話だが。
「うん。そう思うと、体育祭は結構楽しかったのかな」
「ふーん」
「学年で一番格好いい人の周りに女子の人集りができて、『次はわたしと!』なんて言って写真の撮り合いしてた。……あれは見てて楽しかったなあ」
「あんたはその格好いい人と一緒に撮らなかったの」
「……わたしはね、いいんだ。みんなが楽しそうにしてることの方が、わたしはすごい嬉しかったから」
そう言ってにかって笑う。この話はもうここで終わり。
そうこうしていると、次はいよいよツバサとアカネが出る長縄になる。
「さ! みんなで応援しよっ」
葵はそう言って競技に集中した。
それでもしばらく彼は、葵を窺うように視線は外さなかった。
「(こ、この話は終わりなんだってばよう……!)」
一人そわそわしていると、イヤホンから業者側からの声が。
「え? はい。……数が足りなくなってる? そうですか。予備のものが一応あるので……はい。わたしもそちらに行きますね」
「何かあったの」
「うん。タイヤ奪いの数が足りなくなってるんだって。だから予備のタイヤ取りに行ってくるよ」
「一人で大丈夫?」
「うん。ありがとう。もう大丈夫だと思うよ。ヒナタくんが言ってた視線の人たちはわかったし、みんなはとってもいい人だったし」
「え? どういうこと。それオレ聞いてないんだけど」
「まあまあ、詳しくは帰ってきてから話すよ。それより、また何かあったらいけないから、ヒナタくんは司会頑張って!」
葵はそう言って業者のところへ向かう。
残されたヒナタはというと……。
「(あの視線が善人なわけないじゃん)」
ぶつくさと呟きを落としていた。



