すべてはあの花のために②


「ねえ、何かあったの」


 そうしていると、隣の悪魔さんからお声が。


「ん? 何が?」

「いや、別に何でもないけど……あんたは、前の学校でなんか変わった競技とかあった?」


 珍しいこともあるもんだ。君が世間話をしてくるとは。


「……浴衣着て、踊ったかな?」

「浴衣? こんな暑いのに?」


 10月と言ってもまだまだ温度は下がらない。今の日本はの話だが。


「うん。そう思うと、体育祭は結構楽しかったのかな」

「ふーん」

「学年で一番格好いい人の周りに女子の人集りができて、『次はわたしと!』なんて言って写真の撮り合いしてた。……あれは見てて楽しかったなあ」

「あんたはその格好いい人と一緒に撮らなかったの」

「……わたしはね、いいんだ。みんなが楽しそうにしてることの方が、わたしはすごい嬉しかったから」


 そう言ってにかって笑う。この話はもうここで終わり。
 そうこうしていると、次はいよいよツバサとアカネが出る長縄になる。


「さ! みんなで応援しよっ」


 葵はそう言って競技に集中した。
 それでもしばらく彼は、葵を窺うように視線は外さなかった。


「(こ、この話は終わりなんだってばよう……!)」


 一人そわそわしていると、イヤホンから業者側からの声が。


「え? はい。……数が足りなくなってる? そうですか。予備のものが一応あるので……はい。わたしもそちらに行きますね」

「何かあったの」

「うん。タイヤ奪いの数が足りなくなってるんだって。だから予備のタイヤ取りに行ってくるよ」

「一人で大丈夫?」

「うん。ありがとう。もう大丈夫だと思うよ。ヒナタくんが言ってた視線の人たちはわかったし、みんなはとってもいい人だったし」

「え? どういうこと。それオレ聞いてないんだけど」

「まあまあ、詳しくは帰ってきてから話すよ。それより、また何かあったらいけないから、ヒナタくんは司会頑張って!」


 葵はそう言って業者のところへ向かう。
 残されたヒナタはというと……。


「(あの視線が善人なわけないじゃん)」


 ぶつくさと呟きを落としていた。