「あおいチャン、どうして座ってたの?」
「……ちょっと。疲れちゃって」
「どうしても言えないこと?」
「ほんとうだから」
「そっかあ。じゃあそういうことにしておこうっ」
納得してくれる目の前のジャージを掴みながら、彼の肩に額を乗せる。
「アカネくん。みんなに心配掛けたくないから、わたしが……変になってたこと。言わないで」
「……今、変になってたんだ、あおいチャン」
葵は返さない。ただ話さないでくれと願いながら、彼のジャージを掴むだけ。
「わかった。でもあおいチャンがそんなだと、すぐみんなにバレちゃうよ?」
「……気をつけます」
「うん。そうしてください。それで……どうする? 保健室行く? 仕事できそう?」
「大丈夫。競技はあと最後のリレーだけだし、仕事も抜けたらみんなが心配するから……する。大丈夫」
言いながら、まるで、自分に言い聞かせているみたいだと、苦笑をもらす。
「わかった。じゃあ、あおいチャンには会わなかったことにするから、先に生徒会のテントに戻ってて?」
「わかった。それより、よくここにいるってわかったね? もしかしてみんなで捜した?」
「ううん。捜したのはおれだけで……えっと。場所は、あおいチャンの思いが伝わってきたんだぁ。ここにいるよーって」
「ふふ。アカネくん嘘下手だね」
「うん。今自分でもそう思ったから、深くは聞かないで」
「わかった。でも、見つけてくれて。内緒にしててくれて。ありがとう」
葵はそう言ってアカネから離れ、生徒会のテントの方へ歩き出した。
「…………」
葵が去った後、しばらくアカネは塀の方を見つめていた。



