すべてはあの花のために②


「あおいチャン、どうして座ってたの?」

「……ちょっと。疲れちゃって」

「どうしても言えないこと?」

「ほんとうだから」

「そっかあ。じゃあそういうことにしておこうっ」


 納得してくれる目の前のジャージを掴みながら、彼の肩に額を乗せる。


「アカネくん。みんなに心配掛けたくないから、わたしが……変になってたこと。言わないで」

「……今、変になってたんだ、あおいチャン」


 葵は返さない。ただ話さないでくれと願いながら、彼のジャージを掴むだけ。


「わかった。でもあおいチャンがそんなだと、すぐみんなにバレちゃうよ?」

「……気をつけます」

「うん。そうしてください。それで……どうする? 保健室行く? 仕事できそう?」

「大丈夫。競技はあと最後のリレーだけだし、仕事も抜けたらみんなが心配するから……する。大丈夫」


 言いながら、まるで、自分に言い聞かせているみたいだと、苦笑をもらす。


「わかった。じゃあ、あおいチャンには会わなかったことにするから、先に生徒会のテントに戻ってて?」

「わかった。それより、よくここにいるってわかったね? もしかしてみんなで捜した?」

「ううん。捜したのはおれだけで……えっと。場所は、あおいチャンの思いが伝わってきたんだぁ。ここにいるよーって」

「ふふ。アカネくん嘘下手だね」

「うん。今自分でもそう思ったから、深くは聞かないで」

「わかった。でも、見つけてくれて。内緒にしててくれて。ありがとう」


 葵はそう言ってアカネから離れ、生徒会のテントの方へ歩き出した。


「…………」


 葵が去った後、しばらくアカネは塀の方を見つめていた。