「ほんのご挨拶じゃないですかぁ~。ボクも、早くあなたに会いたかったんですぅ」
「そんなことのために、資料を隠したと」
「心外ですねぇ。ボクはいいことをしたはずなんですけどぉ……まぁこの辺りにしておきましょうかぁ。ネタバレしすぎるのもよくないですしぃ。……お互いに、ねぇ?」
「(……やっぱりこいつ、只者じゃない)」
「あれ。黙っちゃったんですかぁ? そんなに驚いてもらえるなんて。嬉しいですねぇ~」
そう言うや彼は、葵の顔の真横の壁に片手を突く。
「どうです? イケメンに壁ドンされてる気分は?」
「すごく不愉快です」
にっこり笑っているが、目は笑っていない。
「へぇ? そんなこと、言っていいんですかねぇ」
「何を言っ――!」
言うが早いか、葵は両手を彼の片手で頭の上で固定され、もう片方で顎を掴まれる。
「ちょっ! ……っ、離してください!」
「あなたにはどうやら、躾が必要のようですね」
顎をぐいっと引っ掴まれ、そのまま無理矢理唇を奪われた。
「んんっ!?」
油断した。足を割って体を密着され、全く動けない。何より気持ちが悪い。
「んー! ……っ、はあっ。んんっ!」
身動きが取れない。声も出せない。舌も絡め取られ呼吸もままならない。
加えて太ももも撫で上げられ、終いには容赦なく服の中に手も突っ込んでくる始末。
「意外に胸大きいんですねぇ。好みではないですがぁ」
「っ、はあ。はあ。……っ」
葵が限界とわかったのか、そいつはにやっと笑いながら葵を解放する。繋がった銀色の糸がぷつんと切れ、唇をぺろりと舐めていた。
力が上手く入らず、葵は空気を入れるので精一杯だった。



