すべてはあの花のために②


「ど、どうしてこちらに?」

「あれ。聞いてない? ちょっと菊」


 声が聞こえたのか、少し離れたところにいたキクはというと、「すまんすまん」と大雑把に謝っていた。


「杜真? なんでこんなところにいるのー!」

「なんだよ紀紗。そんなに俺に会いたかったの」

「ついこの間会ったし。というかあたしよりも、あんたに会ってない奴らが――」


 そうこうしていると、全員がこちらに気付いたのだろう。トーマの名前を叫びながら嬉しそうに飛びついて来たので、葵はさっと拘束から逃れた。


「俺は男に抱かれる趣味はないっ!」


 ぺちゃんこに潰れたトーマだったが、すぐに復活した。


「あれ? 男ばっかりだと思ってたら、レベチの美人が」


 そんなことを言っている彼の視線を辿ってみると……。


「あら。美人だなんて照れちゃうじゃな~い!」

「いやいやいや……」

「ねえ、あの子誰? 俺知ってる子?」

「絶対知ってる子です……」

「てことは……まさかとは思うけど」

「もうっ酷いわ杜真ったら! 元カノのアタシを忘れるなんて!」

「どうしたの翼。そっちに目覚めたの?」

「あら残念。もうバレちゃったのね~」


 そう言ってトーマのところへ行ったツバサは、彼の胸をつんつんしてる。端から見たら、本当に美男美女だ。


「(てことは、少なくともツバサくんは、トーマさんがこっちにいるまではオカマじゃなかったと……)」


 まあ今はそんなことを考えててもしょうがない。せっかく熱海に来たんだから、目一杯楽しまないと。