「ど、どうしてこちらに?」
「あれ。聞いてない? ちょっと菊」
声が聞こえたのか、少し離れたところにいたキクはというと、「すまんすまん」と大雑把に謝っていた。
「杜真? なんでこんなところにいるのー!」
「なんだよ紀紗。そんなに俺に会いたかったの」
「ついこの間会ったし。というかあたしよりも、あんたに会ってない奴らが――」
そうこうしていると、全員がこちらに気付いたのだろう。トーマの名前を叫びながら嬉しそうに飛びついて来たので、葵はさっと拘束から逃れた。
「俺は男に抱かれる趣味はないっ!」
ぺちゃんこに潰れたトーマだったが、すぐに復活した。
「あれ? 男ばっかりだと思ってたら、レベチの美人が」
そんなことを言っている彼の視線を辿ってみると……。
「あら。美人だなんて照れちゃうじゃな~い!」
「いやいやいや……」
「ねえ、あの子誰? 俺知ってる子?」
「絶対知ってる子です……」
「てことは……まさかとは思うけど」
「もうっ酷いわ杜真ったら! 元カノのアタシを忘れるなんて!」
「どうしたの翼。そっちに目覚めたの?」
「あら残念。もうバレちゃったのね~」
そう言ってトーマのところへ行ったツバサは、彼の胸をつんつんしてる。端から見たら、本当に美男美女だ。
「(てことは、少なくともツバサくんは、トーマさんがこっちにいるまではオカマじゃなかったと……)」
まあ今はそんなことを考えててもしょうがない。せっかく熱海に来たんだから、目一杯楽しまないと。



