すべてはあの花のために②


「……お、おはよう、ヒナタくん……」

「おそようなんだけど。今何時かわかってる?」


 振り向くと時刻は20時を回っていた。


「……8時っすね」

「そうですね。よくお眠りで」

「すんません」

「体調は」

「……体調?」


 初めは一体何のことかと思ったが、すぐにそういえば倒れたんだと思い出す。


「うん! もう平気だよ! ここまで運んでくれたんだね……あ! 荷物も持ってきてくれてる! 手も握ってくれてありが――」

「それはいいから」


「照れなくてもいいのに」と呟いたら、睨まれたので慌てて吹けもしない口笛を吹いて逃げた。


「今日は迎え呼んだら。体調悪い時ぐらい送迎頼んでも、学校は何も言わないでしょ」

「え? でもわたしもう大丈夫で」

「んなわけないでしょ。こんな顔して――」


 ヒナタのあたたかい手の甲が、そっと葵の頬を撫でる。一気に詰められた距離感に、葵は驚いて固まった。


「これぐらいで固まる? あんたこそ距離感バカなのに」

「な。……慣れてるんだなと。思って……」

「は? 何が?」

「こ、こういうこと……?」


 ため息をつかれながら「そういうあんたはどうなの」と尋ねられたが、それについては黙秘を貫いておいた。