「……お、おはよう、ヒナタくん……」
「おそようなんだけど。今何時かわかってる?」
振り向くと時刻は20時を回っていた。
「……8時っすね」
「そうですね。よくお眠りで」
「すんません」
「体調は」
「……体調?」
初めは一体何のことかと思ったが、すぐにそういえば倒れたんだと思い出す。
「うん! もう平気だよ! ここまで運んでくれたんだね……あ! 荷物も持ってきてくれてる! 手も握ってくれてありが――」
「それはいいから」
「照れなくてもいいのに」と呟いたら、睨まれたので慌てて吹けもしない口笛を吹いて逃げた。
「今日は迎え呼んだら。体調悪い時ぐらい送迎頼んでも、学校は何も言わないでしょ」
「え? でもわたしもう大丈夫で」
「んなわけないでしょ。こんな顔して――」
ヒナタのあたたかい手の甲が、そっと葵の頬を撫でる。一気に詰められた距離感に、葵は驚いて固まった。
「これぐらいで固まる? あんたこそ距離感バカなのに」
「な。……慣れてるんだなと。思って……」
「は? 何が?」
「こ、こういうこと……?」
ため息をつかれながら「そういうあんたはどうなの」と尋ねられたが、それについては黙秘を貫いておいた。



