「あんたが前日と当日の動きを指示してくれるんかいの?」
「はい。わたしが手を離せない時は、もう一人の彼が指示を出してくれます」
「(……何だったの。今の)」
けれど、その視線はすぐに消え、あっという間に打ち合わせも終わってしまった。この短時間ですっかり仲良くなったのか、業者の人たちと葵は、楽しそうに会話を続けている。
「そうかそうか! こんなしっかりした二人なら、俺らも安心だ!」
「そう言ってもらえてよかったです」
「それにこんな美人さんに会えるんなら、頑張って働かせてもらおうかな!」
「お世辞がお上手なんですね」
「いやいや! あんた何言ってるんだよ! あんたほどの美人には早々お目にかかれな――」
「申し訳ありません」
ヒナタは半ば強引にそこへ割り込んだ。
「このあとまだ会議があるので、そろそろお引き取り願えますか」
「ヒナタくん?」
「そうなのか。それは大変だ。……残念だけど、お仕事頑張れよう」
「あ。……はい。ありがとうございます。では今度は、体育祭の前日準備の時に」
最後の一人が視聴覚室を退出して行くまで、ヒナタは妙な視線について考え込んでいた。
だから――がたんっと大きな音が聞こえるまで、葵が倒れたことに気付かなかった。
「え……っ、ちょっと! しっかりして!」
ヒナタがいくら大きな声を上げても、頬を叩いても葵はピクリとも動かなかった。
取り敢えず息はしている。ただ気を失っているだけのようだ。
「(……どうしてあんな短時間で、こんな状況になってるわけ……)」
保健医はすでに帰宅しているだろうと、ヒナタは生徒会室の仮眠室へと向かう。あまりにも軽すぎる葵の日頃のバカ力の出所を不思議に思いながら、そっとベッドへと寝かせる。
「はあっ。はあっ」
別段熱があるわけでもない。寧ろ手先は血が通っていないと思うほど白く、冷たくなっている。
「(ッ、温めた方がいいか)」
常備してあった毛布をひとまず有りっ丈掛けてやり。
「〈視聴覚室に荷物取ってくるから 帰らないで待ってて〉……っと」
メモを残し、ヒナタは早歩きで視聴覚室へ戻っていった。
「……んん……?」
その時彼女が――……“彼女ではなくなっている”とも知らずに。



