時刻は8時半。少し早くに着きすぎたかもしれないと思っていた葵だったが、駅にはすでにアキラがいた。
「おはようアキラくん。早いね」
「…………」
「アキラくん? アーキーラーくんっ!」
「!」
「おはようアキラくん」
「あ、ああ。おはよう……?」
何かおかしなことでもあったのか。首を傾げたアキラは怪訝そうに尋ねる。
「遅くないか?」
「え?」
「待ち合わせは7時だぞ。遅れるならちゃんと携帯さんで連絡しないと、携帯さんに失礼だろう」
「えっと……アキラくん。待ち合わせは9時。しおり、ちゃんと読まなかったの?」
「9時!?」
目を通すのを忘れていたのか。心底驚いた様子で彼は慌ててしおりを鞄から取り出している。待ち合わせの場所と時間を確認して、納得したようにため息を吐いた。
「……そうだったな。うん。待ち合わせは9時だ」
「……アキラくん、大丈夫?」
「何がだ? あ。……葵、お菓子にバナナは入りません」
「ええ?! そうなの!? 持って来ちゃっ……って違う!」
「ははっ。お前は本当に面白いな」
そう言って彼は、葵の頭を撫でる。最近は特に、よく頭を撫でられることが多い。
そうこうしているうちにみんなが来たので、そのまま新幹線に乗り込み熱海へ向かった。
「(今度からしおりにも『バナナはお菓子に入らない』って付け加えた方がいいと思う)」
本当にバナナを持ってきてしまった葵は、ツバサとカナデとチカゼに指を差されて笑われていた。
「みんな! ちょっといい?」
キクがお手洗いへ行ったタイミングで、キサからある提案が告げられる。
「最終日が菊ちゃんの誕生日だから、みんなでお祝いできたらいいなと思って!」
実は今回理事長にお願いして、小さなパーティーができる部屋をプラスして一室借りているという。部屋を飾り付けして、それっぽく盛り上げたいとのこと。
「足りないものは宿に借りるか買い出しで。プレゼントは個人で観光ついでによろしく!」
キクも帰ってきたので、慌ただしくこの話は終了。あとはお互い連絡を取り合おうということに。
その話が終わると、一時間程度で目的地の熱海に到着。しかしその間、アキラは朝早く来たせいか着くまでぐっすり眠ってしまっていた。
「(疲れてるだけならいいんだけど……)」
これ以上酷くなるようなら、彼にも踏み込むべきなんだろう。しばらく様子を見てみるべきか……。
「うーん」
「何を悩んでるの?」
「いえ。大したことでは」
そう答える否や、何故か肩にぽんと手を置かれる。そこでふと、誰と話をしていたんだっけと我に返った。
「ならいいけど、無理はしちゃダメだよ」
「と、トーマさん?!」
「会いたかったよ葵ちゃん」
「ちょちょちょお……?!」
そして、何故か熱海にいたトーマに後ろから抱き締められた。



