すべてはあの花のために②


 時刻は8時半。少し早くに着きすぎたかもしれないと思っていた葵だったが、駅にはすでにアキラがいた。


「おはようアキラくん。早いね」

「…………」

「アキラくん? アーキーラーくんっ!」

「!」

「おはようアキラくん」

「あ、ああ。おはよう……?」


 何かおかしなことでもあったのか。首を傾げたアキラは怪訝そうに尋ねる。


「遅くないか?」

「え?」

「待ち合わせは7時だぞ。遅れるならちゃんと携帯さんで連絡しないと、携帯さんに失礼だろう」

「えっと……アキラくん。待ち合わせは9時。しおり、ちゃんと読まなかったの?」

「9時!?」


 目を通すのを忘れていたのか。心底驚いた様子で彼は慌ててしおりを鞄から取り出している。待ち合わせの場所と時間を確認して、納得したようにため息を吐いた。


「……そうだったな。うん。待ち合わせは9時だ」

「……アキラくん、大丈夫?」

「何がだ? あ。……葵、お菓子にバナナは入りません」

「ええ?! そうなの!? 持って来ちゃっ……って違う!」

「ははっ。お前は本当に面白いな」


 そう言って彼は、葵の頭を撫でる。最近は特に、よく頭を撫でられることが多い。

 そうこうしているうちにみんなが来たので、そのまま新幹線に乗り込み熱海へ向かった。


「(今度からしおりにも『バナナはお菓子に入らない』って付け加えた方がいいと思う)」


 本当にバナナを持ってきてしまった葵は、ツバサとカナデとチカゼに指を差されて笑われていた。


「みんな! ちょっといい?」


 キクがお手洗いへ行ったタイミングで、キサからある提案が告げられる。


「最終日が菊ちゃんの誕生日だから、みんなでお祝いできたらいいなと思って!」


 実は今回理事長にお願いして、小さなパーティーができる部屋をプラスして一室借りているという。部屋を飾り付けして、それっぽく盛り上げたいとのこと。


「足りないものは宿に借りるか買い出しで。プレゼントは個人で観光ついでによろしく!」


 キクも帰ってきたので、慌ただしくこの話は終了。あとはお互い連絡を取り合おうということに。
 その話が終わると、一時間程度で目的地の熱海に到着。しかしその間、アキラは朝早く来たせいか着くまでぐっすり眠ってしまっていた。


「(疲れてるだけならいいんだけど……)」


 これ以上酷くなるようなら、彼にも踏み込むべきなんだろう。しばらく様子を見てみるべきか……。


「うーん」

「何を悩んでるの?」

「いえ。大したことでは」


 そう答える否や、何故か肩にぽんと手を置かれる。そこでふと、誰と話をしていたんだっけと我に返った。


「ならいいけど、無理はしちゃダメだよ」

「と、トーマさん?!」

「会いたかったよ葵ちゃん」

「ちょちょちょお……?!」


 そして、何故か熱海にいたトーマに後ろから抱き締められた。