すべてはあの花のために②



 あたたかい春の日に舞う、花びらのようで。
 さむい冬の日に降り積もる、雪のようでもある。

 それは、吹けば飛ぶような、儚い灰燼。

 灰白一色の、夢世界。
 灰色の空から、小さな欠片がゆっくり、ゆっくりと落ちてくる。


『拗ねているのかい?』


 ゆっくり……ゆっくりと落ちていく。


『……ん……』


 体に、衝撃があった気がして、ゆっくりと目蓋を上げる。


『……かあ、さん……?』


 そう口にしてから、違うと気付く。

 主張の強い赤いドレスに、やわらかそうな黒い髪。
 可憐で、綺麗で、気高くて。

 それから、真っ赤な――――…………。


『……きみも、抜けだしたの?』


 どこかちぐはぐなその少女は、きっと自分と同じなのだろう。


『どうして、寂しそうなの?』


 そう言われて少し驚く。
 そんなにはっきりと、顔に出ていただろうかと。

 それと同時に、少し嬉しくもあった。

 拗ねているのではなく寂しいのだと、気が付いてもらえたから。


『……きっと、だいじょうぶよ』


 その一言が、寂しさを吹き飛ばしてくれたから。


 ――――――――――………………
 ――――――…………


「――――ッは」


 意識が、急激に浮上する。
 まるで今まで息が止まっていたかのように、心臓が暴れ、脳に酸素が行き渡っていく。


「……ふう……」


 落ち着きを取り戻してから、短く息を吐く。
 何かが磨り減っていく感覚は、何度経験しても慣れはしない。


 けれど……何故だろう。
 今回は――――……。


「……もうわからないのは、少し……」


 悔いが残るかもしれないな。