早朝に家を出ると小さな雪が舞っていた。
寒さに見をすくめながらいつものようにスマホで動画撮影を開始する。

「こんな天気の日、岡山に行きます。岡山の天気を調べてみたら、今日は雪が積もる予報になってました」

スマホへ向けてつぶやきながら香は慶太との約束場所である、駅へと急ぐ。
今日は祝日だから、早朝の駅前は閑散としていた。

行き交う人がいなくて体感温度がグッと下がっている気がする。
「香!」

駅構内に入ると柱に背中を預けて立っていた慶太が気がついて近づいてきた。
「先にチケット取っといた」

そう行って手渡された新幹線チケットを見て、香はようやく覚悟を決めた。
今日は早朝から岡山へ行って、そして日が暮れる前に戻ってくる。

家族旅行で1度倉敷に行ったことはあるけれど、西羽咲という作家が根付いた土地、津山についてはよく知らないままだった。

土地勘のない場所に出向くだけでも少し怖いのに、今回は両親にも相談しないまま出てきてしまった。