守ってやるよ

「久しぶり」



俺は気づかないふりをして、何事もなかったかのように声をかけた。



それから芽衣と並んで、何気なく雨を眺める。



2人の間に静かな会話が流れた。



芽衣が俺のことを見ているのが伝わる。



俺は、観里じゃないよ、芽衣…。



芽衣が俺の姿に観里を重ねているのを感じて。



心がぐっと苦しくなるのを感じた。



俺は気づかないふりをした。



「帰る頃には止むといいな…」



そう言って芽衣を見た。



そして、ぎょっとする。



芽衣があり得ないくらいに泣いている…。



俺はどうしたらいいか分からずに芽衣の前でおろおろするだけ。



だけど、俺にしがみつくように泣く芽衣に、俺は芽衣の話をひたすら聞いた。



芽衣から聞く苦しみの数々。



それは同時に俺の心も締め付けた。



「観里がいなくなるのが怖いよ…。でもそんな恐怖から守ってくれる観里はもういない。あたしは…どうしたらいいの?」



芽衣の苦しみは、そのまま俺に伝わって。



俺だって観里が死んでからずっと苦しみ続けてる…。



俺が、観里の代わりに芽衣を守らないといけない…。



強くそう思った。



「俺が、守ってやるよ」



咄嗟に言ったその言葉。



泣いていた芽衣の涙が一瞬止まる。



「観里がお前を守れなくても、観里の代わりに俺が守ってやることはできる。俺が、お前を夜の恐怖や不安から守るから。だから、もう泣くな」



口をついて出る言葉の数々。



自分でもびっくりした。



それでも、芽衣のことを守ってやりたい、守ってやらなきゃと思った。



俺の言葉にまた泣いた芽衣の頭を撫でて。



俺は、その日から、芽衣のことを守ると強く決心した。



それが、俺が観里のためにしてやれること…。



俺は観里のためにも、芽衣のためにも、芽衣を守る。



それが、俺にできる観里への罪滅ぼしでもあった。