聞き間違いかと思って目を白黒させると、三牧くんは読んでいた文庫をパタンと閉じ、優しく言い添える。

「僕の肩でよかったら、いくらでも貸すよ。僕は読書に集中する。君は睡眠時間を確保できる。二人とも時間を有効活用できるなんて、いいことしかないよ?」
「……そ、そうかな」
「うん」

 穏やかな笑みとともに肯定されて、しばらく悩む。
 どうやら社交辞令というわけでもなさそうだ。本人が嫌がっていないなら、かたくなに申し出を断るのも角が立つ気がする。

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
「いつでもどうぞ」

 すべての罪を許すような落ち着いた声音に、わたしは曖昧に頷いた。

 ◇◇◇

「……園川さん、園川さん」
「ふぇ?」
「学校に着いたよ」

 ゆっくりと窓の外を見ると、学校の近くの交差点に差しかかるところだった。
 あわてて自分の体勢をチェックする。窓にも三牧くんにも寄りかかっていないことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

「……お、おはよう。三牧くん」
「うん。おはよ」

 清々しい笑顔とともに挨拶が返ってきて、わたしは思わず目を細めた。