学校に着くまで約一時間。早起きはつらいけど、睡眠が至福の喜びのわたしにとって堂々と二度寝できる環境は天国だ。今日も走り疲れで襲ってくる睡魔にあらがうことなく、バスが山道をゆっくり上る心地よい揺れの中で爆睡していた。
 いつもの感覚で、そろそろ学校に着く頃だと体が反応して目が覚めた。

「……んん?」

 窓にもたれかかって寝ていたはずなのに、ひんやりとした窓ガラスとは違う温もりに違和感を覚える。この抜群の安定感。頭を預けるのにちょうどよい肩の高さ。その正体に感づき、驚いて飛び起きる。
 あろうことか、わたしは男子生徒の肩にしっかりもたれる格好で寝ていたらしい。

「ご、ごめんなさい」

 恥ずかしさのあまり、蚊の鳴くような声しか出なかった。それでも一応聞き取ってくれたみたいで、隣に座っていた男子が小さく会釈を返す。同じ高校生なのに、なんて優しい人なんだ。うちの兄なら小言が飛んでくるところだ。
 バスが終点に着き、彼が先に降りていく。わたしもよろよろと起き上がり、後に続いた。