バス通学の園川さんと寮生の三牧くん

 速やかに離れなければと思うが、悲しいことに足に力が入らない。全身を襲った甘い痺れの余韻が残っているせいかもしれない。男女の差だろうか、腰に回された腕は安定感があり、とても頼もしい。どこにこんな筋力を隠して持っていたんだ、三牧くん。
 しかも、なんだか三牧くんの体からいい香りがする。柔軟剤もしくはシャンプーだろうか。フローラルミントの香りに頭がクラクラしてきた。
 今の心境を一言で表すなら、兄がよくスマホを握りしめて呻いている「供給過多」が一番しっくりくる。こんなの受け止めきれない。明らかにキャパオーバーである。

「ど……どうかお手柔らかに……お願いします」
「うーん。善処はするけど、こればかりは慣れてもらうしかないかも」
「そ、そんな……」
「だって、すでに園川さんは恋心を育て始めているんだよね? それってもう、僕のことが好きって言っているもんだし。両思いなら離れる必要もないよね。あまり長く宙ぶらりんな関係でいるのもあれだし、お試し期間は二週間でいいかな。これからもっと好きになってもらえるように僕、がんばるね」

 瞳を輝かせた三牧くんは、爽やかな笑みで言い切った。