バス通学の園川さんと寮生の三牧くん

 妹さんの朝の髪のセットは、三牧くんが担当なのだそうだ。彼のポケットにはヘアゴムや予備のピンもあるらしく、なんでも出てくる魔法のポケットに見えてきた。前に雑誌で見た髪型をリクエストすると、快く引き受けてくれた。いい人すぎる。

「園川さん、できたよ。どうかな?」
「わっ……わぁぁ! すごく可愛い! ありがとう!」

 手鏡で横と後ろのアレンジを見せてもらい、わたしは我を忘れてはしゃいだ。

「よく似合ってる。可愛いよ」
「ひぇ」

 慈愛に満ちた眼差しを向けられ、情けない声が出てしまった。
 恋人仕様のような甘い声に驚いてしまったけれど、三牧くんにとっては妹さんに向ける言葉と同じもののはずで、おそらく他意はない。ただの社交辞令。深い意味などない。
 けれども、優しい手つきで髪に触れられたことを思い出すだけで、なぜだか心がざわついた。落ち着かない。合格発表を見たときのように胸が高鳴る。
 冷静に。冷静になろう。自分の胸に両手を当てて深呼吸する。だが考えないように意識すればするほど、心拍数は急上昇する。ばっくんばっくんと耳の奥まで心臓の音がうるさい。