「ボタン、つけ直すよ。こう見えて僕、手芸部だから。今からやれば、チャイムが鳴る前には終わるよ」
「三牧くんって手芸部だったの!?」
「うん。こういうこともあろうかと、携帯用の裁縫道具は持ち歩いているんだ。任せて」

 三牧くんに後光が差す。頼りがいのある言葉に、わたしの涙腺はゆるんだ。

「すごく助かるよぉ……。ぜひお願いしてもいい?」
「全力で作業に当たるね」

 上靴に履き替えたわたしたちは、下駄箱の裏にある中庭のベンチに腰を下ろした。ちょうど大きな木が陰になって、わたしたちを隠してくれている。この位置ならクラスメイトに見つかることもないだろう。
 鞄からお裁縫セットを取り出し、すいすいと針を動かす三牧くん。手慣れた動きはさすが手芸部だ。玉留めと糸切り鋏でちょきんと切ったらおしまいだ。なんて早業。鮮やかな手仕事。もうプロだよ、これ。

「はい。どうぞ」
「ああああ、ありがとう! 三牧くんが縫ってくれた服、ずっと大事にするね」
「ボタンを直しただけなんだけど……」
「本当に、本当にありがとう」

 涙ながらに感謝を伝えると、喜んでもらえてよかった、と微笑みが返ってきた。