この春入学した高校は県北にあり、山と田んぼがあるだけの田舎なので交通の便はあまりよくない。そのため、大半の生徒は寮に入る者がほとんどだ。残りの一部は、わたしのように駅から出ている送迎バスで通っている。
 とはいえ、駅から学校までの距離もそこそこあるので、バス通学でも軽く一時間はかかってしまうのだけど。
 それでもわたしがこの高校に決めた理由は、県内随一の桜山があるから。

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 あれは忘れもしない。一年前、家族と花見で訪れたときのことだ。
 父が驚くぞと得意げに言った言葉のとおり、一面が見事に桜色で染まった山々は圧巻だった。春風で花びらが舞う様子がなんとも神秘的だったし、雄大な自然に囲まれた景色は、受験生となった自分にとって癒やし効果抜群だった。
 後ろ髪を引かれる思いで駅までの道を歩いていると、紺のブレザーを着た高校生とすれ違った。帰宅後、近くに高校があるのを知った。友達を誘って体験入学に行ったとき、校舎の裏手にある庭園を見つけて、ときめき指数は頂点に達した。