「あ…槙野。さっきまで委員会があって、今から帰ろうとしてたとこ」

「あそういうこと…ん?指、怪我したの?」


パッと立ち上がった和佳ちゃんは鞄に教科書を詰め込んでいて、その手に包帯が巻かれていることに気づく。


「…ああ、これは体育の時に突き指しちゃって。久しぶりのバレーだったから、つい力んじゃったみたい」

「相変わらず、強烈なスパイクだったもんなー」


和佳ちゃんの頬がぴくりと引きつり、浮かべていた笑顔がすっと消えた。


「…あんなの、全然すごくなんてないよ」


和佳ちゃんはうちの中学で女子バレー部キャプテンとして少し有名な存在だった。

うちの中学はそこそこの強豪校だったにも関わらず、一年の頃からスタメン入りだった和佳ちゃんは年々強さを増していて周りからの期待も大きかった。

しかし、三年生最後の大会では、あと一歩で全国大会というところで二点差で相手校に負けてしまい道は閉ざされてしまった。

噂で聞いたところ、最後の和佳ちゃんのスパイクが相手のブロックで完璧に塞がれたそうだ。

バレー部みんなは“仕方がない”“ここまで来れただけすごいことだ”と吹っ切っていて、和佳ちゃんもそんな部員たちに笑顔で励ましていたと後から聞いた。


バレー部の最後の大会の日、俺は先生との三者面談があった日で学校に来ていて終わったのは夕方ごろで、一応受験生だしもうすぐ定期テストもあるため図書室でも寄って勉強して帰るかと体育館前を通った時のことだった。

部活はテスト一週間前で禁止されているから誰もいないはずの体育館で、ボールが打ち付けられる音がかすかに聞こえてきた。