「…ごめん。あの時信じなくて。棗一人のせいにして。最低なこと言って。七瀬さんに怖い思いさせて。たった一言謝るのがこんなにも遅くなって、ごめん」


重ねた手を棗にぐいっと強く引っ張られて立ち上がる。


「いいよ。昔も今も、俺にとっておまえはずっと親友だから。こんくらい広い心で許してやる」

「何を上から目線に…。無自覚に人に優しいところ直さないと、七瀬さんに愛想つかれても知らないからね」

「まじか。それは困る…」


本気で悩んでいる様子の棗にふっと小さく笑いがこぼれる。

俺の知ってる棗はこんなに一人の女の子を想って表情をコロコロ変えるやつなんかじゃなかった。

むしろ恋愛をどこかバカにしていたやつだったのに。

七瀬さんと出会って、変わったんだな。


「…ムカつく」

「は?なんでだよ」


不思議そうにしている棗をとんっと軽く小突く。


「早く別れろ、ばーか」

「は、はあ!?死んでも別れねぇよ!」


ムカつくけど、この世界で一番おまえの幸せを願っているのは、親友の俺なんだからな。

そんなこと、棗には絶対言わないけど。