「よう、おつかれ」


怒涛の一日に頭痛を感じながら店を出ると、当たり前かのようにしゃがみ込んで待っていた棗が飄々とした顔で片手を上げてきた。


「…は?何してんの」


半分本気で七瀬さんに手を出そうとしたあの日から、申し訳なくて七瀬さんには一度謝罪したきりカフェバイトをやめて新しく居酒屋でバイトを始めたのがつい一昨日のこと。

なぜこの男が俺の新しいバイト先を知っているんだ?


「おまえとクラスメイトだっていうやつから新しいバイト先聞いた。…なんか疲れてんな」


今日は学校で朝から何かと頼まれ事をされることが多く疲れたのにプラスして、バイトでは午後八時から宴会の予約が入っていたためまだ新しいバイト先に慣れていないというのに走り回っていたせいでたしかに倦怠感があった。

しかしそれをこいつに見抜かれるなんて、なんだか癪だ。


棗は昔からそう。

何にも興味がないくせして人が気づかないような細かいところまで気を配らせることが得意で、男子でも女子でもそんな棗の些細な指摘にどきりとしてしまう。

無自覚でそれをやっているところも恐ろしい。

天性の人を虜にする力を隠し持っているのだ。

それをあの整いすぎた顔でやられたら、そりゃ女子はみんな落ちるに決まっている。