「…俺も棗の大切な子を奪おうとしただけだよ。棗がしてきたのよりもずっと最低な手を使ってね」


–––「親友がいたんだ」


ふと、前に棗が親友だった人の話をしてくれたことを思い出す。

坂上くんは棗が苦しそうにしてくれた過去の話の当事者、棗の親友だった人なんだ。


「どうして…?棗の親友だったんでしょ?なんでこんなことができるの…?棗は今もずっと後悔して生きているのに」

「後悔…?後悔したところで、俺の好きだった人は戻ってこない。俺の幸せだった日々を奪ったのはこいつなんだ。だから棗に大切な人ができた時、最低な手を使ってでも奪ってあの絶望を味合わせようと決めた。七瀬さんがたまたまバイト先に入ってきて、あいつと同じ制服を着てたからもしかしてと思ったら、仲良いだけじゃなくて棗の大切な人だったなんて運命だと思ったよ」

「…違うよ。私は…」


坂上くんは勘違いをしている。

私はたしかに棗にとって少しは特別な存在だと思いたいけど、一番大切な人なんかじゃ…。


「…え?」


ぐいっと棗に強く抱き寄せられた。


「こいつは、茉莉花だけはダメだ。俺は無意識に祐樹を追い詰めて、苦しめたことをずっと後悔してた。だから俺に何かをするのは構わない。自業自得だし、それで祐樹の気が済むなら全然いい。だけど、茉莉花に手を出すことだけは許さない。誰にも譲れない、大切な人なんだ」