「…気まずい?喧嘩でもしたの?」

「いや、私が避けちゃってるだけ。悪いのも私みたいなものだし」


棗にはしばらく一人で帰るから迎えに来なくて大丈夫だと一週間前に伝えてから、一度も迎えに来てもらっていない。

そもそも付き合っているわけでもないのだからこれが普通なんだ。

それなのに少し寂しいと思ってしまう私は、やっぱり棗のことが好きで仕方ないのだろう。


「…困るなぁ」

「え?」


机を拭いていた手を止めて顔を上げると、いつの間に目の前にいたのか坂上くんと至近距離で目が合い、グッと身体を押し倒された。


「…え?坂上く…」

「七瀬さんにはあいつと仲良くしてもらわないと困るんだよ。あいつの大切な人じゃないと」


片手で私の両腕を高く掴んでいる坂上くんが、もう片方の手でそっと私の頬に手を添えてきた。

その目はいつもの坂上くんからは想像ができないほど冷たく、思わずぞっとする。


「…え?」

「ずっと待ってたんだ。あいつにも大切な人ができるその時を。俺がこの手でぶっ壊したいと願っていたから」