気づいたら、そう口にしていた。

棗が驚いたように目を見開いているのを見て、ハッと我に返る。


「あ、ちが…っ、いや違くはないんだけど、そうじゃなくて!」

「まり…」

「待って、何も言わないで!」


失敗した。こんなところで言うはずじゃなかったのに。

棗が好きという気持ちが溢れて無意識に言葉にしてしまった。


「わかってるから…。棗は私のこと嫌いだって言ってきたもんね。優しくしてくれたのだって、信じてくれたのだって、私が昔の知り合いだからでしょ?わかってるよ」


目を逸らしながらぐいっと棗の体を押し戻す。


「俺、は…」

「棗とこれからも話せるだけでいいの。それだけでいいから」

「おかえりなさい〜」


いつの間にか一周が終わり、何も知らないスタッフの人が営業スマイルで扉を開けてきた。