「いいよ、もうやめても。…だけど、今日私が棗くんとくっつけるように協力してくれるなら、ね?棗くんのすぐなびかないで冷たい性格、気に入っちゃった。あんな人に溺愛なんてされたらすごくいいと思わない?だから、協力して?私が棗くんと付き合えるように協力してくれたら、もう私の悪女なんて演じなくていいよ。茉莉花だって本当の家族じゃないあの家で、お母さんとお父さんにこれ以上冷たくされたくないでしょ?茉莉花が私のお願い聞いてくれるなら、何もかも元通りにしてあげる。茉莉花を自由にしてあげるよ」


あの家を出ていくことも考えたことがある。

だけど、所詮私はまだ高一。

一人で生きていくお金もスキルも持ち合わせていない。


だから最低でも高校卒業までは美亜たち家族のいるあの家で過ごさなければならない。

今回だけ美亜の言うことを聞けば、私の高校生活は随分とマシなものになるのではないか…?

私が棗への気持ちさえ諦めてしまえば、ずっと望んでいた自由を手に入れられるのだ。


「はー怖かった!ドキドキしたね〜」


美亜から天使スマイルを向けられた棗は「ああ」と短く答えただけで、会話を展開しようとは全くしていなかった。


「次はどこに行きたい?」


美亜の頬がぴくりと引きつっていたが、棗は気にした様子もなく私を振り返ってきた。


「え?えっと、私はどこでも…。み、美亜は?」