「行くならおまえがいい」

「…私?」


ぶわっと頬が熱くなるのを感じて慌てて棗から顔を逸らす。


「な、なんで…?他にも人はたくさんいるのに…」

「さあ…なんでだろう。でもおまえがいいと思ったから」


するっと私の熱い頬に優しく手の甲を当ててきた棗に、思わずびくりと反応してしまう。

な、なに…?何を考えているの…?

棗の手はひんやりとしていて気持ちがよくて、心臓が破裂しそうだというのにまだ離してほしくないと少しだけそう思った。


「あ、あの…」


この空気に耐えられなくなり思わず口を開くと、なぜか棗が立ち止まり頬に触れていた手も離れた。

不思議に思いながら顔を上げると、棗は目の前の塾からぞろぞろと出てきている中学生らしき集団を凝視していた。


「…棗?」

「…あ、悪い。俺の通ってた中学の制服を着てたやつがいたから…」


棗はハッとしたように目を逸らすと、罰が悪そうに首の後ろに手を当てていた。