「…へ!?な、なに急に…」

「前も思ったけど、悪女面よりも笑った顔をもっと周りにも見せればいいのに。そうすれば誰もおまえのことを悪女だなんて思わなくなるだろ」

「…え?」


なんで棗がそんなことを言ってくるのか全く理解できなかったけど、棗に言われた言葉になぜかデジャヴを感じる。

このセリフを昔にもどこかで言われた気がする…。どこだっけ…?


–––「泣いた顔しか知らなかったけど、笑った方が可愛いじゃん」


…そうだ。たしかあれは私が六歳くらいの頃に胃腸炎をこじらせて入院していた時に、苦しくて泣いていたばかりの毎日で同い年くらいの男の子に出会って言われた言葉だ。

トイレに行った帰りに急におなかが痛くなってうずくまっていたところを、その男の子が今の棗みたいにおぶって病室まで連れて行ってくれたのだ。


「おまえは俺の昔の知り合いに似てる。そいつも笑った顔の方が似合うやつだったから」

「…え?」

「風邪かなんかをこじらせて入院してたみたいで、いつも病室で泣いてるやつだったんだ。俺は自転車と事故って足を骨折してたんだけど、そいつが廊下で泣いてるのを見てなんとかしてあげたいと思って本当はまだ治ってない痛む足を我慢して、かっこつけておぶってやった。足の治りが遅くなるし親に怒られるしでちょっと後悔もしたけど、結果的にそいつの笑顔が見られたからまあいいかって思ったのを覚えてる」


…私も、覚えてる。