「それはもう忘れて…」


最悪だ。よりによって棗にこんな醜態を晒すなんて…。


「悪女のくせに熊が怖いなんてな」

「う、うるさい…!棗こそ怖いものくらいあるでしょ」

「俺は別に。…まあ強いて言うなら霊とかかな。身近な存在だし不気味だろ」


真顔でそんなことを言ってくるものだから、思わずきょとんと目を丸くする。


「え?棗って、幽霊信じてるの…?」

「信じるも何もあいつらはこの世に存在するんだよ。じゃなきゃ映画やテレビで出てきたりしないだろ」


堪えきれなくなり、ふっと吹き出す。


「あははっ、何それ。冷酷王子のくせに幽霊が怖いの?意外なんだけど」


思わず爆笑してしまうと、ぴたりと私をおぶったまま棗が立ち止まった。

やばい、笑いすぎて怒った…?


「…やっぱり、笑った方が可愛いじゃん」