私の体も地面に降ろしてくれた棗はチラリと私を一瞥だけすると、頭を擦り付けていたネコを抱き上げた。


「…別に。おまえのためじゃなくて、こいつのためだし」

「…え?」

「俺の近所に住んでる野良猫。ここに迷い込んできたんだろ。おまえに踏み潰されて死んだらたまったもんじゃねえからな。だから助けただけ。おまえが落ちようがそんなのはどうでもよかった」


こいつ…。腹立つ。

感情的にならないようになんとか必死に心を落ち着かせ、棗の手からネコを取り上げる。


「私が木の上から助けてあげたんだし」

「…その落ちかけた間抜けな女から助けてやったのは俺だ」


棗が負けじとネコを奪ってきた。


「離してよ。番長は私と同じであんたみたいな冷酷王子は嫌いだって」

「はっ、番長?もしかしてこいつの名前か?だっせぇ名前つけんなよな。こいつにはボスって名前がもうついてんだよ」

「はあ?あんまり変わんないし。それなら番長の方が絶対この子にはぴったりでしょうが」

「ふざけんな。舐めた名前つけてんじゃねぇぞ」


棗と番長の取り合いをしていると、我慢できなくなったのか番長は私と棗の手を「シャー!」と威嚇しながら引っ掻くと、スタスタと去っていってしまった。