「泣いた顔しか知らなかったけど、笑った方が可愛いじゃん」

「え?」

「いや、なんでもない…」


この日、俺は一人の小さなヒロインに恋に落ちた。


「病室まで送ってくれてありがとう。さっきより全然良くなった」

「本当に先生呼ばなくて平気か?」

「うん。よくあることだし、寝たら治るから」


ベッドに横たわりながら弱々しく笑顔を見せる少女に心配の気持ちが勝ったけど、早く休ませてあげようと病室を出て行こうと背を向ける。


「ねえ、待って。君が来てくれて本当に助かった。君はヒーローみたいだね」


呼び止められて振り返ると、少女は泣きつかれたせいか言いたいことだけ言うと、すぐにスウスウと寝息を立てて寝てしまった。

自由でマイペースな少女に近寄り、そっと頭を撫でてあげる。

もう、この子を一人で泣かせたくないと、そう強く思った。



「…め。棗!」