この世界は、物語の主役(ヒロイン)になれる人とそうではない人で分かれている。


美亜(みあ)、早く食べないと遅刻するわよ〜。お弁当はここに置いておくからね」

「はあーい」


トーストを齧りながら間伸びした返事をする美亜にチラリと視線を向ける。


ふわふわに巻かれたミルクティー色の髪は、今日はポニーテールにまとめられていて美亜が動くたびに甘い花の香りが漂ってくる。

色白の肌にチークをほんの少し乗せただけの整った顔は、きっと今日も外を歩いているだけで二度見されるくらい完璧に可愛い。


「美亜の入学祝いで今日は焼肉でも行くか。今日は珍しく帰れるのが早そうなんだよ」

「え、本当!やったぁー」


パッと嬉しそうに笑った美亜をお父さんもお母さんも微笑ましそうに眺めている。

私だって昨日高校に入学したんだよ、と心の中で呟きながら、幸せな家庭の見本のような三人の横を通り過ぎて家を出る。


私の家は少し複雑で、私を産んだ本当のお母さんは私を産んだ時に元から持っていた病気のせいで死んでしまった。

その後、お父さんは私を一人で大切に育ててくれて、私が小四の時に今のお母さんと再婚した。

今のお母さんは美亜が六歳の時に離婚したみたいで、仕事場が一緒だった二人はお互い同い年の娘がいて片親同士だったためすぐに仲が深まっていき再婚に至った。

最初の二年間は幸せだった。美亜もお母さんも優しくて、四人での暮らしはすごく充実したものだった。