「……紫」

「へっ!? は、はいっ……」

 さっきまでのバチバチを見ていたから、声がうわずってしまった。

「そんなに見られたら、さすがに照れるのだが」

 ノートを持ったまま、視線を合わさずただ前を向いている翡翠くん。
 それに引きかえ、私は彼の顔色を伺うばかりでじっと見ちゃって……。

「ご、ごめんねっ。人の顔をこんなにジロジロ見ちゃダメよね……」

「いや、俺も悪い。心の準備ができていれば、いつでも大丈夫なんだが」

 え、えぇっ!?
 だ、大丈夫なの……?
 すごい真剣な顔をしてるし。

 私から見ておきながら、そんな風に言われたら……。
 恥ずかしくてたまらない。

「紫……顔がかなり赤いが。もしかして、また熱か?」

「ち、違う違うっ。その……翡翠くんが、えと」

 平然とそんなことを言うから。

「ーー俺は、紫のことを誰にも渡さない。これだけは、絶対に譲れない」

 真面目な顔をして言われたから、顔にぶわっと熱が集まった。

 こんななんて事もない廊下で、平然と言われるなんて。
 翡翠くんと一緒にいたら、心臓がいくつあっても足りないよ……っ。