「村崎のこと、名前で呼ばせて欲しい」
「……へ?」
「……申し訳ない。図々しく踏み込みすぎたか」
片手で目元を抑え、ずーんと落ち込む彼。私は慌てて否定した。
「う、ううん……! 全然そんなことないよ? むしろーーそれで良いの?」
「それ、って……じゃあ、お言葉に甘えてもう一つ」
「っ!?」
自分から言い出したにもかかわらず、驚いてしまった。次は、何を要求されるんだろう。そんな思いで、心臓はバクバクだ。
「俺のことも名前で呼んで欲しい」
「えっ。そ、それってーー」
そっちの方が、ハードルが高そう。男子を名前で呼んだ事なんて、一度もない。
「俺は、本気で村崎ーーいや……紫の婚約者になれるよう、全力を尽くす。だから、その時のためにーーその日以降も何も変わらない生活が送れるようお互いが一生呼べる名で呼び合いたいんだ」
普通に私の名前を言えるなんて。
名前で呼ぶと言う事に、そんな遠い未来のことを考えてるなんて。真剣に考えてくれている彼にーー私も応えたい。
「えっとーーひ……翡翠くん」
ドキドキして震えた声で彼を呼ぶと、優しく穏やかな表情で私を見つめられ、トクンと胸がときめいた。

