「……なぜ謝る」
少しの沈黙の後、彼が不思議そうに言った。
なんでって、そりゃあ……!
「緑谷くんが来ないでって言ったのに、私が来たから……でもっ。私っ……! 緑谷くんの部活の姿を見たくてっ。だけど、約束は破っちゃって……その」
上手く言葉がまとまらない。嫌がらせで来たのではなく、活躍を見たかった。
「あぁ。悪意がないのは分かってる」
「本当……? 良かった」
ホッとしたのも束の間、彼はくすりと小さく笑った。
「そうでないと、あんな大声で……俺を応援なんてしないだろ?」
「っ!? み、緑谷くん……気付いてたの?」
観覧席には、たくさんの人がいた。その中で、たった一人ーー私が応援したってバレてたなんて。
「当然。俺が、村崎の声を聞き間違えるわけがない」
と、誇らしげに言われたが、どこからその自信がくるのだろう。
「正直、あの応援がなければ俺はーー負けていたと思う」
「ーーえ?」
首にかけられた金メダルの煌びやかな輝きとは正反対なネガティブな言葉。今、そんな言葉は似合わないよ。
「会場の空気は、圧倒的に相手校を応援していた。仲間は、俺が負けたとしても全国大会へは出場できるからと、気持ちが抜けていた」
私のように心を読めないはずの彼だが、私が感じていたものと同じものが分かっていたみたい。その分析力に驚いた。

