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俺は、女子から苦手視されることが多かった。
「緑谷くんだわ」
「怖いわね。何か怒っていらっしゃるのかしら」
ヒソヒソと小さな声で言っているが、しっかりと聞こえる。
子どもの頃から口下手で、男友達は何人かいても、女子と話すことはほとんどない。
中学生になると、身長は一気に伸びて百八十センチになった。周囲の人を見下ろす形になると、余計に怖がられることが増えた。
その中で唯一、俺に声をかけてくれた子がいた。
「緑谷くん。よかったら、これ」
それは、俺が一年生の時。風邪をひいて休んだ翌日。席に着いたばかりの俺に、プリントを渡してくれた。
「……これは?」
「昨日、休んでいたでしょ? ノートの全部を写すのは大変かと思って」
プリントを見ると、全て手書きのもの。昨日の板書を書いてくれてる。俺が、教科ごとにノートに貼れば良いだけにしてくれている。
「ありがたい……だが」
ここまでしてもらうのは申し訳ない。
そう言おうとしたが、彼女の表情はぱあっと明るくなった。
「よかった……! 病み上がりだから、大変だと思って。他にも何かあれば、言ってね。力になるから」
ーー俺は単純だ。
彼女の無邪気な笑顔に心奪われたのだから。

