「使用人さんが良くして下さり、その縁で。中村さんに伝えられてなくてすみません。だから、今日はーー俺と村崎だけに」

「えぇ、無粋なことを言って申し訳ありません。若い二人の恋路を邪魔するほど、野暮ではございません」
(村崎家のお嬢様より、決定権のある当主に直接案内できる方が効率的。子どもの色恋沙汰を見ている場合じゃないわ。早く帰って商談を成功させるために計画を練らないと)

 中村さんは食い気味にそう言って施設から出て行った。

「村崎」

 二人きりになり、シンとした空気を破った緑谷くん。なぜか、難しい顔をしている。

「ーー? どうしたの?」

「村崎は、泳げるか?」

 突然、そんなことを言われきょとんとした。

「少しなら。あまり、上手ではないんだけど……」

 泳げないわけではない。でも、得意げに言える実力もない。

「ではーー今日はプールを利用しよう」

「へ!?」

 突然の申し出に、声が裏返ってしまった。

「あ、い、嫌か……!?」
(今日は、最高気温になる予定だし涼むのにぴったりだと思ったが、嫌がられてしまったか。そうなると、次のーーあ、いや。やっぱり、他に考えたものの方が)

 私の反応を見た緑谷くんが慌てて、今日のデートについて色々考えてくれていたことがことが分かった。

 そんなに、今日のことーー。
 そう思うと、くすっと笑みが溢れた。