無口な彼の内情を知ったら、溺愛されるようになりました……!?


「紫様。よろしいでしょうか?」

 ノックをしたのは、私の身の回りのことをお世話してくれている執事、畠山さんのようだ。

「ーーはい。大丈夫です」

 乱れた心を落ち着かせ、答えるとゆっくりとドアが開いた。

「失礼致します。お嬢様、お客様がお見えになっております」

「お客様……? えっと、今日はお稽古事はお休みですしーーどなたでしょう?」

「緑谷さんというお若い男性の方です。お嬢様の婚約者候補のお一人ですね」

「っ!?」

 畠山さんの言葉に、声が出なかった。

 え、えぇっ……!? 緑谷くんが、一体どうして……!

「客間でお待ちいただいておりますが、いかがいたしましょう?」

「っ、す……すぐっ。でも……この格好では。準備を終えたらすぐに向かいますっ」

 夏休みで、習い事がないからとラフな格好をして過ごしていた。でも、クラスの男子ーーしかも、婚約者候補がいるとなるときちんとしなければ。

 もう少し待ってもらう事になるが、畠山さんに伝言をお願いした。
 まさか、家にやって来るなんて……!
 一つ屋根の下に、同級生の男の子がいるなんて初めてのことでそわそわする気持ちでいっぱいになった。