「む、何だ。今日は、空手部がここを使っているんだが?」
扉を開けると、短い廊下の先に引き戸がある。引き戸の向こう側が、道場になっているのだが引き戸が開いていた。廊下では、学校のジャージを着た男子生徒達が、飲み物などの休息の準備をしていた。
突然、武道場へ足を踏み入れた私にギロリと鋭い視線が向いた。
「あ、あのっ……。えっと、緑谷くんに」
風呂敷に包んだレモンの蜂蜜漬けが入ったタッパーを前に差し出した。
差し入れを持ってきたと言う前に、男子達の目の色が変わった。数人いた男子達がざわざわと騒ぎ始めた。
「み、緑谷さんに……だとっ!?」
(どういうつもりだ!?)
(まさか。次の大会に出られないよう、何か入れてるとか? そうでないと、あの人に差し入れなんて……!)
(そんなもの持ち込まれたら、俺らが怒られる!)
男子達の表情が、青ざめている。
ど、どうしようーーまさか、こんな大事になるなんて。
「そもそも、神聖な武道場に勝手にそんな物っ!」
そう言い、私に手を伸ばす彼ら。
運動部で鍛えている彼らに敵うはずがない。恐怖できゅっと目を閉じた。しかし、乱暴なことをされるどころか触れられる感覚もなかった。

