「ーーあ、あのね。お兄ちゃん。えっと……」
少し休んでから病室を出ることになり、その間兄は事務仕事をすることに。私の様子を見ながら仕事をすることになったが、私には確認したくてたまらないことがあった。
「ん? どうした?」
手を止め、私の方を見て首を傾げる兄。
仕事の邪魔をするのを申し訳ないと思うと同時に、【人の心が読めるかもしれない】という話をするのが億劫になった。
養護教諭と緑谷くんが話している時は、二人の心の声だと思えることが聞こえていた。でも、お兄ちゃんと話している時は、聞こえない。
やっぱり、人の心が読めるなんて非現実的な話ーーできるわけがない。
「紫ちゃん? お兄ちゃんには言えない事?」
(もしかしてーーあの男の事か?)
「っ……!」
やっぱり、心の声が聞こえる……?
でも、あの男ってーー?
「い、言えない事ーーじゃないんだけど。その……笑ったりしない?」
「笑う? 真面目な紫ちゃんが、おかしな事でも言うのか?」
穏やかな表情で、疑っている様子なんて微塵もない。
そう。お兄ちゃんならーーきっと、私の言う事を真面目に聞いてくれるはず。

