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土曜日の昼下がり。
いつもなら、私は家にいる。
だが、今日は格式の高い懐石料理店にいる。
襖が開いており、横目に手入れの行き届いた日本庭園が見える。
中学二年生の私が来るような場所ではないが、今日は特別な日。
私の両隣に両親が座り、向かい側には緑谷 翡翠くん。そして、同じように彼の両親が座っている。
シンと静まっていたが、カコンとししおどしの音が聞こえ厳格そうな緑谷くんのお父さんが口を開いた。
「ーー息子の翡翠です。物心ついた時からずっと鍛錬をしており、このような場には慣れていない愚息ですが、どうかお手柔らかに」
彼の紹介が終わると、緑谷くんが無表情のまま口を開いた。
「……よろしくお願い致します」
それだけ言うと、再びシンと静まった。しかし、すぐに沈黙は破られた。
「娘の紫です。娘もこのような場を設けたのは初めてなので、同じですよ」
穏やかな表情で言うのは、パパーーって、こう言う場で呼んだらいけない。父、もしくはお父様。
今日は、私の婚約者との顔合わせ。とはいっても、私はまだ中学生だから相手は確定ではない。将来的に家の利益になる為の相手と結婚することにはなるけれど、相手は決めさせてもらえるとか。
それが、今時の政略結婚らしい。

