○学校・教室(朝)

朝の教室。窓からは柔らかな日差しが差し込み、生徒たちは思い思いに過ごしている。

そんな中、三峰紗菜はいつものように自分の席で参考書を開き、ペンを走らせていた。

だが、どうしても集中できない。

昨夜の出来事――

「俺、お前のこと惚れさせるわ」

桃瀬翼のあの宣言が、頭の中をぐるぐる回っていた。

紗菜(モノローグ)
「……バカバカしい。あれは何かの冗談に決まってる」
「気にするだけ無駄。私はいつも通り、勉強に集中するだけ」

無理やり思考を切り替えようと、視線をノートに落とす。

しかし、その平穏は長くは続かなかった。

翼「よう、三峰」

突然、目の前に現れた翼が机の上に片手を置いて、覗き込んできた。

紗菜「……何よ」

翼「昨日のこと、ちゃんと覚えてる?」

余裕たっぷりの笑み。

紗菜「何のこと?」

翼「お前のことを惚れさせるって話」

紗菜「……忘れた」

翼「おいおい、そんな適当なこと言うなよ」

翼は楽しそうに笑いながら、自分の席に腰を下ろす。そして、にやりと笑って指を一本立てた。

翼「じゃあ、今日から俺の"挑戦"開始な」

紗菜「……挑戦?」

翼「ああ。俺が色んな方法で、お前をドキドキさせる」

紗菜「はぁ?」

翼「で、もしお前が一度でも俺を意識したら、素直に認めろ」

紗菜「バカじゃないの?」

翼「バカじゃないよ。本気だし」

昨日と同じセリフ。

紗菜は思わず舌打ちしそうになるが、ぐっと堪えた。

紗菜「……勝手にすれば?」

翼「言ったな? じゃあ、さっそくいくぞ」

そう言うなり、翼は立ち上がり――

突然、紗菜の手を取った。

紗菜「ちょっ、何?」

翼「手、意外と小さいんだな」

翼は自分の手と紗菜の手を比べるようにじっと見つめる。

紗菜(モノローグ)
「……な、何なのこいつ!?」

反射的に手を振り払おうとするが、翼はニヤニヤしながら指を絡めてくる。

翼「はい、これでドキッとしたら負けな」

紗菜「……してない!」

乱暴に手を引き、じろりと睨みつける。

翼「おお、さすが強情だな」

翼は面白そうに笑いながら、次の"挑戦"を考えている様子だった。

紗菜(モノローグ)
「なんなのよ、こいつ……!」
「こんなのに負けるわけない……!」

――だけど、ほんの少し。

自分の手に残る感触が、気になってしまったのも事実だった。